データ社会に向けたベトナムのモバイル決済

背景

過去数十年にわたって、デジタル変革の波により、決済ソリューションやプラットフォームに劇的な変化が起きている。多くの国でモバイル決済が浸透し、ビジネスに変革をもたらしている。

ベトナムでは、若年層でのスマートフォンの普及率が高いことや金融包摂が進んでいないことが、モバイル決済が急速に浸透した要因といえる。また、まだまだ市場発達の初期段階にあり、参入の良いタイミングである。

金融、小売、ICTの各企業をグループ会社に持つクライアントは、デジタル決済ネットワークへの投資経験から、同分野の可能性や重要性を予見し、弊社(B&Company)と協力し、以下の目的に焦点を当てたモバイル決済に関する調査を実施した。

  • ベトナムでのデジタル決済の状況を把握し、中長期的なビジョンから戦略を構築する
  • ベトナムでのモバイル決済の成長性や考えられる将来の戦略を評価する
  • 本事業へのクライアントの参入可能性を評価し、パートナー候補との協力関係を構築する
顧客 : 非公開
分野 : 市場調査、コンサルティング
業界 : フィンテック
期間 : 2018年9月~2019年2月

 

本プロジェクトには、全体的な市場調査や事業者の評価だけでなく、戦略構築などのコンサルティングも含まれる。さらに、ベトナムではモバイル決済が新しい事業であるため、様々な市場の事例を分析し、どの事業モデルがベトナム市場に適合するのか予測する必要があった。そのため、各調査チームが緊密に連携しながら、最適な手法で調査を実施した。

モバイル決済に関連する情報、統計データが限られているため、主要な関係者や事業者にインタビューを実施し、幅広い情報源から収集した情報を統合、推定する必要があった。また、各調査チームの拠点が中国、日本、ベトナムの3か国にあるため、本プロジェクトを円滑に進行するにはタイムリーなコミュニケーションも重要な課題であった。

グローバル、ベトナム国内双方の広範囲な調査が必要となるため、調査設計、インタビュー調整、データ処理、戦略構築、将来予測などの各部分で様々な技術が必要であったが、ベトナム市場をクライアントが先導できるような洞察を含む中身のある報告書が完成した。

プロジェクトの各段階で効果的なソリューションを考案した。

  • 設計(調査計画策定)

全体から詳細に向かう視座を持ち、4段階のスキームを構築した。

1) グローバルなモバイル決済市場の状況を調査し、複数の典型的な事例を分析する
2) ベトナムのモバイル決済市場の状況を分析する
3) ベトナムのモバイル決済市場の将来動向を予測する
4) ベトナムのモバイル決済市場での戦略的オプションを抽出する

グローバルとベトナムを比較するため、各事例を5W1H(Who、What、Where、When、Why、How)の手法で分析し、ベトナムでも模倣できる可能性がある事例を抽出した。

ベトナムでの市場調査では、デスクリサーチ、政府当局や主要企業へのインタビュー、小規模小売業者や顧客企業とのグループディスカッションなど、各手法を組み合わせることにした。

  • 実査(フィールドワーク)

チームをさらに小さく分割し、かつそれぞれ同時に調査を実施するため、進捗共有、ネクストステップ決定を行うミーティングを週に1度実施した。また、最適なインタビュー候補の選定と高品質な実査のため、社内外のリソースとネットワークを効果的に活用した。

  • レポーティング(コンサルティング)

限られた時間のなかで戦略的な構想を練るため、元々計画していた中間・最終報告に加え、クイックセッションを積極的に実施した。オープンにアイデアを共有しながら信頼関係を構築することは、本プロジェクトの生産性向上に大きく役立った。

ベトナムのモバイル決済市場への参入機会を評価し、それに応じた戦略を構築するという目的に固執していた。

  • グローバルなモバイル決済市場の状況・典型事例

世界中でモバイル決済市場が急成長していることが統計データで示された。ただし、金融インフラの整備、現金以外の決済方法の浸透、ITリテラシー、需要などの度合いに応じて、各国で様々な成功モデルが存在した。以下、4つのモデルに集約できた。

1) 米国モデル:非接触型決済を活用したモバイル決済から始まった。NFC(近距離無線通信)技術の導入コストが比較的安い先進国で人気が高い。
2) 中国モデル:主要なモバイル決済事業者がISP(インターネットサービスプロバイダー)である発展途上国で多く見られる。QRコードについては、価格の低さと技術の簡易さから主に外出先で使用されている。
3) EUモデル:元々銀行で提供されるサービスの1つがモバイル決済であったため、銀行の普及率が高い先進国で多く見られる。
4) ケニアモデル:スマートフォンや銀行口座を持たない低所得層のサポートを目的として、電話ベースのフロントエンド技術を活用したMNO(モバイルネットワークオペレーター)がモバイル決済サービスを提供している。

  • ベトナムのモバイル決済市場の状況・将来動向

ベトナムの近代化、グローバル化はモバイル決済の可能性と課題の双方を生み出した。新技術に即座に適応する若年層の増加に加え、スマートフォンやEコマースの安定的な利用率の向上により、ベトナム政府はモバイル決済(非現金決済)の優先を推奨している。しかし、依然として日々の決済で一番利用されているのは現金であること、銀行口座の保有比率の低さに代表される金融インフラの整備状況などがボトルネックとなっている。多くの事業者がベトナムのモバイル決済市場に参入しているが、大きな成功を収めた事業者はいない。

  • 戦略的オプション

調査結果から、モバイル決済市場への新規参入余地がまだあることが分かったが、ベトナムでは依然として現金習慣が根付いているため、市場シェアを大きく獲得する事業者は現れていない。また、人口の大多数が現金以外の決済方法を受け入れるのに5年以上かかることがインタビュー結果から示された。しかし、より便利なデータ収集基盤を構築することで、将来的にデータ社会でのモバイル決済の実現可能性があることが分かった。病院、スマートシティなどの公共サービスから商品購入、車両予約などの日常サービスまで、モバイル決済によりはるかに便利な生活を得られる。モバイル決済やその他のデジタル化が人々を繋ぎ、様々なサービスの架け橋となり、データソサエティの実現に結び付くだろう。